乳がん
女性がかかるがんの中で最も患者数が多いのが乳がんです。15人に1人の割合でかかるリスクがあるともいわれています。欧米に比べて乳がん患者が少ないといわれた日本でも、食生活の欧米化や晩婚による高齢出産などのライフスタイルの変化、閉経後女性の肥満の増加などの社会背景により、患者数・死亡者数ともに年々増えてきているのです。
ただし罹患率が高くても、乳がんによる死亡者数は大腸、肺、胃、すい臓に次いで5位と、ほかのがんに比べて治りやすい病気でもあります。比較的進行がゆっくりで、異変に気づきやすいのも乳がんの特徴。早期発見・早期治療のために、定期的に乳がん検診を受けることが大切です。
乳がんってどんな病気?
ほとんどが乳管がんで、非浸潤がんなら99%治せる
乳房は、乳腺組織と脂肪、間質組織、皮膚などからできています。乳腺組織には小葉(しょうよう)と乳管があり、乳房の中は乳管が放射線状に広がっていて、乳管が枝分かれした先にぶどうの房のように小葉があります。乳がんはこの乳腺組織にできるがんで、そのほとんどは乳管のところにできる乳管がん。約5~10%は小葉にできる小葉がんです。
乳管の中でがん化しても、がん細胞が乳管内にとどまっているうちは「非浸潤がん」と呼ばれ、治療によって99%治すことができます。しかし、がん細胞が増えて乳管の外に染み出るようになった「浸潤がん」は、血管やリンパ管に入り込んで転移する危険性があります。“しこり”として発見されるがんのほとんどは、こうした浸潤がんです。
- 出典:
- 『乳がんが見つかったときにまず読む本』中村清吾書(主婦の友社)
※発生部位の頻度を示したものであり合計は100%ではありません。
発症のピークは30~40代ながら、高齢者の増加も問題に
乳がん以外のがんの多くでは、年齢が高くなるほど罹患率が上昇します。
それとは異なり、乳がんにかかる人の割合を見ると、30代後半から40代で発症のピークを迎えます。そして50歳代以降、患者数が減少するのが特徴で、かつては閉経前の女性が60%以上を占めていました。
しかし、最近では欧米同様、閉経後の高齢者の乳がん患者も急増しています。高齢者の乳がん患者が増えている理由の1つとしては、肥満の増加が影響しているといわれています。
女性の部位別がん罹患率
- 出典:
- 独立行政法人 国立がん研究センター がん対策情報センターWEBサイト「がん情報サービス」
『女性の部位別がん罹患率 2007年』より
女性ホルモンの影響を受けるタイプの乳がんが約70%
乳がんの60~70%はエストロゲンという女性ホルモンの影響で成長します。初潮が早く閉経が遅いと、それだけエストロゲンにさらされる期間が長くなるため、乳がんになるリスクが高くなるといわれています。
同じように、妊娠・授乳期間も生理が止まり、エストロゲン分泌が抑制されるので、妊娠・出産経験がないことや高齢出産がリスク要因だとされているのです。
乳がんにかかるリスクが高い人の特徴は
初潮が早い
閉経が遅い
月経周期が短い
出産経験、授乳経験がない
初産年齢が高い
飲酒の習慣がある
BMI(肥満度を示す体格指数)が20以上の肥満
家族に乳がん患者がいる
良性の乳腺疾患にかかったことがある
どんな症状がでるの?
「しこり=乳がん」ではなく、良性の乳腺疾患の可能性も
乳がんといえば「しこり」と思っている人も多いですが、女性ホルモンの影響で女性の乳房は周期的に変化しますので、乳がん以外の良性疾患(乳腺症、線維腺腫、乳管内乳頭腫など)であることも少なくありません。
一般的には、良性のしこりと悪性のしこりには以下のような特徴があるといわれています。必ずしもこうした症状に当てはまるとは限りませんから、気になる人は専門医を受診しましょう。
「痛みがあるから乳がんでない」は間違い
皮膚に近いところにしこりがある場合、皮膚がひきつってえくぼのようなくぼみができることがあります。また、乳房の皮膚が赤くなって痛むときは、炎症性の乳がんの可能性があるので「痛いから乳がんでない」などということはありません。
特に、これらの症状が左右どちらかだけで見られる、左右の乳頭の位置や向きが違うといったときは要注意です。また、乳がんはわきの下のリンパ節に転移しやすいので、わきの下の腫れや腕のしびれなどにも注意が必要です。
乳房にこんな症状ありませんか?
下記のような症状が見られたら早めに受診しましょう。
しこり
乳頭からの分泌物
乳房のひきつりやえくぼのようなくぼみ
乳房の皮膚が赤くなる
痛み
わきの下の腫れ
セルフチェックをしてみよう
月に1回、日付を決めてセルフチェック!
乳がんは自分で見つけることができるがんです。気になる症状や変化がないかどうか、毎月1回のセルフチェックを習慣にしましょう。生理前はしこりや痛みがあるので生理1週間後、閉経後の人は毎月日付を決めてチェックするのがいいでしょう。
セルフチェックの方法
①入浴時、石けんの泡やジェルなどで滑りやすい状態でしこりや硬い部分がないか、指の腹で触れてみる。数本の指をそろえて、小さな「の」の字を書くように指を動かす。左の乳房は右手で、右の乳房は左手で。
②分泌物がないか、乳房や乳頭を絞ってみる。
③鏡の前で腕をあげて頭の後ろで手を組み、左右の乳房の形の違い、ひきつり、くぼみ、乳輪の変化、湿しんなどがないかを観察する。
④仰向けに寝て、①と同じように触れてみる。リンパ節の腫れなどないか、わきの下まで丁寧に触れること。