Chapter4

診察の流れ

大切なのは日頃のセルフチェックと定期検診です。セルフチェックで異常を感じた場合は、乳腺科を受診してください。乳腺科の診察では、乳がんが疑われる要素を一つずつ排除していきます。
まず、どういう症状か、いつからか、月経の周期は規則的かなどの問診後、触診でしこりの大きさや硬さ、動くかどうか、押すと痛いかなどをチェックします。しかし触診のみでは実際の腫瘍と乳腺症の症状を正しく区別することが難しいため、万が一、問診・視触診だけで「これは乳腺症だから大丈夫」と言われた場合は、超音波検査やマンモグラフィなどの画像検査を希望しましょう。

超音波(エコー)検査

ジェルを塗った乳房に超音波を発するプローブ(探触子:バーコードリーダーのような小さな装置)を当てて、体内組織からの超音波の反射波を画像にします。痛みやX線の被爆はありません。超音波検査はしこりを見つけるのに適していて、しこりのある部分が黒く映ります。高精度な検査では、のう胞の固さや血流の有無など、しこりの内部の性質も診断できます。ただし、超音波検査では、石灰化を詳しく映し出せません。

マンモグラフィ(乳房X腺撮影)検査

乳房を透明な2枚の板で挟み、圧迫して薄く伸ばしてX線撮影を行います。圧迫するのは数秒ですが、月経の直前などは痛みを感じやすいので、避けたほうがよいでしょう。マンモグラフィは微細な石灰化を見つけるのに適していて石灰化が白く映ります。石灰化は乳がんだけでなく、良性の腫瘍や乳腺症でも発生するため、マンモグラフィで映し出される石灰化の分布や形状などから、がんによる石灰化なのか、乳腺症や良性の腫瘍に伴う良性石灰化なのかを診断できます。
マンモグラフィは、がんに発生する小さな石灰化を映しだすのは得意ですが、しこりそのものは、乳腺と同じ淡い白い影として映し出されます。そのため、石灰化を伴わないがんのしこりが、発達した白い乳腺の影の中に白い影として紛れてしまうことも多くあります。そのため、乳腺が発達している40代までは、しこりがあっても乳腺に紛れてマンモグラフィに映らないこともあるのです。
したがって、超音波検査とマンモグラフィ、それぞれの弱点を補えるように、両方の検査を組み合わせて検討することが重要です。
超音波検査とマンモグラフィで腫瘍(良性、悪性)の疑いがあると診断された場合は、細胞診もしくは組織診を行います。細胞診では、細い注射針をしこりに刺して細胞を吸引して採取します(麻酔なし)。組織診では、局部麻酔をして、直径2~3ミリの特殊な形状の針をしこりに刺し、乳腺の組織を採取します。

 

※セルフチェックについては、「乳がん」の「Chapter3 セルフチェックをしてみよう」をごらんください。

診療の流れ

問診→マンモグラフィ(乳房X腺撮影)、超音波(エコー)検査、視触診→画像診断→細胞診もしくは組織診(腫瘍が疑われる場合)→確定診断→治療方針の決定 問診→マンモグラフィ(乳房X腺撮影)、超音波(エコー)検査、視触診→画像診断→細胞診もしくは組織診(腫瘍が疑われる場合)→確定診断→治療方針の決定

Chapter5

どんな対処をするの?

乳腺症による乳房の痛みは、炎症によるものではないので、鎮痛剤などは効きません。乳房の圧迫を避けるため、月経前はブラジャーを大きめのカップあるいはワイヤーなしの柔らかめのものにするだけでも、痛みが和らぎます。

「葛根湯」や「桂枝茯苓丸」「当帰芍薬散」などの漢方薬でホルモンのバランスや体調を整えることで、症状が軽減される場合もあります。ただし、効果の有無や程度は人によって異なります。日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合は、ごくまれにですが、ホルモン剤の服用を検討します。また、のう胞がかなり大きくなって、赤くなったり、痛みが強かったりする場合は、のう胞内部に炎症を併発していることが多く、この場合は針を刺して中の水を抜いたり、炎症や感染を抑える内服薬を使ったりすることがあります。
きちんと検査をして、「乳がんではなかった」という安心感で、症状が和らぐ方も少なくありません。それでも、セルフチェックは欠かさないようにしましょう。特に乳腺症でしこりを感じる人は、どのくらいの時期に、どこに、どういうしこりを感じるかを自分で知っておくことが大切です。

Chapter6

費用の目安

自覚症状がない場合の検査は検診といい、法律上、健康保険が適応にならないため自費診療となり、医療費は全額、自己負担となります。
しこりや痛み、乳頭からの分泌がある場合や精密検査などは、保険診療ととなるため医療費の一部(通常は3割負担)のみ自分で負担することになります。
したがって、検診と診療は費用が異なります。また検診の場合は自治体や会社の健康保険組合などが補助を行っていることもあり、補助金額などによって、自分で負担する金額が変わります。検診を受ける前に事前にご確認をお勧めします。

自治体の検診

自治体が医療費の自己負担分の一部あるいは全部を補助。40歳以上の女性は2年に1回受けられます。大半の自治体が特定の年齢を対象に「無料クーポン券」を発行しています。

  • マンモグラフィ+視触診…………………………………………
    無料~2,000円前後

人間ドックの検診

基本的には全額自己負担ですが、会社の検診などで受ける場合は、健康保険組合などが、医療費の一部、あるいは全額を補助することもあります。マンモグラフィと超音波検査をセットにして行う場合もあります。

  • 超音波(エコー)検査……………………………………………
    3,000~5,000円前後
  • マンモグラフィ……………………………………………………
    4,000~6,000円前後

乳腺科の検診

検診の医療費を全額自己負担で行います。

  • 超音波(エコー)検査……………………………………………
    3,000~5,000円前後
  • マンモグラフィ……………………………………………………
    4,000~6,000円前後
  • 超音波検査+マンモグラフィ+視触診+自己検診指導………
    15,000~20,000円前後

病院や施設によって、検診で行う検査内容によっても料金が異なります。初めての検診はマンモグラフィと超音波検査の両方がお勧めです。その際にご自身の乳房の状態から、今後は何の検査をどのくらいの頻度で受けるのが自分に適しているかを乳腺科の医師に相談して、その後の検診の計画を立てるとよいでしょう。

Chapter7

ドクターからのアドバイス

正しい知識を身につけ、ふだんから自分の胸の正常な状態を知っておくことが、わずかな異常に気づくための第一歩です。セルフチェックをなかなか継続できないようなら、病気のチェックと気負わず、お風呂上がりに好きな香りのボディローションを塗り込んで、乳房をふだんから触る習慣を持つだけでも十分変化に気づくことができます。毎日のリラックスタイムとして行ってみてはどうでしょう。
また、乳がんは発見が早いほど、治療による体のダメージも治療の費用や時間も少なくて済みます。仕事や子育てで忙しいからこそ、大切な時間やお金を治療に多く費やすことにならないように、年に一度、数時間の検診時間をぜひ捻出してください。ご自身の乳房の状態やライフスタイルに合わせて、自治体や人間ドックの検診をするのか、あるいは、乳腺専門クリニックなどでかかりつけ医を見つけて検診するのがいいのか、続けやすく安心な検診を選ぶことも大切です。自分のためにも大切な人のためにも乳がん検診を受けましょう。

ピンクリボンブレストケアクリニック表参道
院長 島田菜穂子先生

1988年筑波大学医学部卒。1992年東京逓信病院で乳腺専門外来を開設する。米ワシントン大学ブレストヘルスセンター留学時代に、乳がん予防と早期発見の啓発活動に触発され、帰国後、ピンクリボンバッジ運動をスタート。イーク丸の内副院長、東京ミッドタウンクリニックシニアディレクターなどを経て、2008年1月 ピンクリボンブレストケアクリニック表参道開設、院長に就任。