Chapter4

定期検診と検査内容

自治体の乳がん検診は40歳から

乳がんは触ってしこりを感じるようになる前の非浸潤がんの状態で発見できれば99%治せます。だからこそ、セルフチェックだけでなく、定期検診を受けることが大切です。自治体で行われているマンモグラフィを含む乳がん検診は40歳からとされています。しかし、家族歴※がある場合は遺伝性乳がんの疑いがあり、若い人でも早めに乳がん検診を受けましょう。もちろん、セルフチェックで異常を感じたときは、乳腺科や乳腺外科などを受診してください(これらがないときは外科を受診)。

※祖母までの親族に3人以上乳がん患者がいる、2人だけど若くして発症した、男性乳がん患者がいる

基本はマンモグラフィ(乳房X線撮影)

乳がん検診は、医師による視触診・問診とマンモグラフィが基本です。マンモグラフィは乳房を透明な2枚の板で挟み、薄くした状態で上下・左右方向からX線撮影を行います。手に触れないほど小さなしこり、しこりのないがんの石灰化などを見つけることができ、乳がんの早期発見・早期治療に大いに貢献しています。

若い人に有効な超音波(エコー)検査

乳房の上から超音波プローブを当てて、しこりを画像化するのが超音波検査です。マンモグラフィでは乳腺が発達しているとしこりのように白く写ってしまうことがありますが、超音波では小さなしこりも見つけることができます(その代わり石灰化が見つかりにくい)。そのため、乳腺密度の高い人や乳腺の発達した若い人の検査に適しているといわれています。

乳がんを確定するためのさまざまな検査

マンモグラフィや超音波検査で「乳がんの疑いあり」とされた場合、細胞診やマンモトーム生検で細胞や組織をとり、より詳しい検査を行います。かつては切開をして生検をしていましたが、マンモトーム生検では針を刺すだけで詳しく調べることができ、負担も小さくて済みます。

Chapter5

もし乳がんになったら、どんな治療をするの?

手術、放射線、薬物の組み合わせ治療が基本

乳がんの治療は、がんの進み具合(ステージ)、しこりの大きさ、転移の有無などによって決められますが、中心となるのは手術・放射線・薬物治療の3つです。
手術によってがん細胞を取り除きますが、全身に散らばった小さながん細胞による転移や再発を防ぐため、放射線や薬物治療を組み合わせて行うのが一般的です。また、女性ホルモン受容体やHER2(ハーツー:細胞の増殖にかかわる遺伝子タンパク)というタンパク質の有無によって、細かく治療法が変わるという特徴があります。

手術の6割は乳房温存術

手術には、乳房を残す「乳房温存術」と全摘出する「乳房切除術」があります。
乳房温存術は放射線治療と組み合わせて行うことが基本で、切除してもあまり乳房が変形しない大きさのしこりであること、多発病巣でないことなどを条件に行います。
一方の乳房切除術は乳房を失うということから敬遠する人が少なくありません。しかし今は乳房を失っても膨らみを取り戻せる「乳房再建術」が普及しているため、乳房切除術を選択する人も増えてきました。
以前は一般的に行われていたわきの下のリンパ節をすべて切除する「リンパ節郭清(かくせい)」も、最初に転移がある「センチネルリンパ節生検」の結果を見てから行われるようになりました。

乳房切除術でも再建すれば、きれいな乳房を取り戻せる

乳房再建には、シリコン製の人工乳房を使う再建術と腹や背中の脂肪を使う自家組織再建の2種類があります。さらにがん摘出手術と同時に行う「一時再建」と後になって行う「二次再建」とに分かれます。
自家組織は保険適用となるため費用の負担は少なくて済みますが、脂肪を取り出すときに切開するため身体的負担があります。対して人工乳房は保険適用とならないため金銭的な負担が大きいのが一番の課題。2012年9月に初めて医療用としてインプラントが製造販売承認を得たことをきっかけに、人工乳房も保険適用となることが期待されています。

手術と組み合わせて行われる放射線治療

放射線は局所のがんを死滅させることができる治療。乳房温存術を行った場合やリンパ節転移がある場合には、手術とあわせて放射線治療が行われます。進行性の乳がんで、術前の抗がん剤治療に効果が見られないときには、放射線でがんを小さくしてから手術を行えるようにすることがあります。また、骨転移や脳転移などの症状を緩和するための放射線治療もあります。

主に目的別に行われる3種類の薬物治療

薬物治療の目的は、「手術の前にがん細胞を小さくしておく術前化学療法」「体に残ったがんの芽をつぶし再発を防ぐための術後補助療法」「治療困難な進行がんや再発がんに対して、延命およびQOL向上のために行う薬物治療」など、進行具合などに応じて異なります。乳がんの薬物治療は大きく分けて以下の3種類で、これらを組み合わせて行うことがほとんどです。

  • 化学療法:抗がん剤治療で全身のがんを攻撃します。がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響するため、さまざまな副作用が出ることが知られています。
  • ホルモン療法:女性ホルモンの影響を受けやすいホルモン受容体のあるがんに対して行う治療で、薬によって女性ホルモンの働きを抑えます。
  • 分子標的薬:HER2(ハーツー)というがん細胞の増殖に関わるタンパク質だけをターゲットに攻撃します。

Chapter6

乳がん治療 費用の目安

〈公的医療保険適用分〉※自己負担3割の場合

手術(10日間入院) 総額約65万円 自己負担約20万円
放射線治療 総額約65万円 自己負担約20万円
化学療法 FECの場合(3週間ごと6サイクル) 総額約36万円 自己負担約11万円

費用は進行具合や治療方法によって異なります。以上はあくまでも目安です。保険適用範囲でも、使用する薬の種類などによっても金額は変わります。このほか、差額ベッド代や人工乳房による乳房再建術など、保険適用外の治療費が必要になる場合もあります。

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ドクターからのアドバイス

乳がんは小さいうちに見つければ、患者さんの負担も小さく、見た目にもきれいに治すことができます。早期ならば再発や転移の不安もありません。だからこそ日頃からのセルフチェックに加えて、定期検診を受けることが大切なのです。ところが、マンモグラフィ受診率向上によって乳がん死亡率が減少している欧米に比べて、日本の受診率はまだまだ低く、30%程度でしかありません。少なくとも40歳を過ぎたら、年1回乳がん検診を受けてください。そして、少しでも乳房に異変を感じたら、ためらわずに専門医を受診するようにしましょう。

中村清吾先生

昭和大学医学部 乳腺外科 教授。昭和大学病院ブレストセンター長。千葉大学医学部卒業。米M.D.アンダーソンがんセンターでの研修などを経て2005年聖路加国際病院初代ブレストセンター長、2010年より現職。

※掲載内容は2013年4月20日現在の情報です