Chapter4

どんな治療法があるの?

代表的な治療は、靴の選び方を変えるなどの「生活指導と経過観察」、足の状態に合わせた「インソールの作成」、痛みが強いなど、症状が重い場合は「手術」と、大きく3つに分けられます。

① 生活指導と経過観察

痛みなどの症状が軽い場合は、歩いても痛くない靴を選び、それを履いて経過を観察します。靴を替えて様子を見ながら、足指を動かすエクササイズを並行して行い、痛みの悪化を防ぐようにします。症状が特に悪化しなければ2~3か月に1回程度の通院となります。

② インソールの作成

制服で履く靴が決まっている人や、市販の靴で痛みが出やすい人は、足の状態に合わせた医療用インソールを作成します。これは治療用目的のオーダーメイドなので、健康保険が適用されます。ただし、保険が適用されるのは左右1足分だけです。このインソールを靴を替えながら使います。インソールは制作に1週間ぐらいかかります。使い始めてから3週間ぐらいで慣れますが、合わない部分があるようなら再調節します。
今まで履いていた靴にインソールを入れると靴がきつくなってしまうことがありますが、靴を替えたり、器具で皮を伸ばしたりして、インソールを入れた状態で足にフィットするように工夫します。インソールは整形外科に併設されている装具外来などで作成します。

③ 手術

足のエクササイズやインソールなどの装具でも改善が見られない場合は手術が必要です。一般的には中足骨を切って、中足骨と基節骨がまっすぐになるように矯正して変形を治します。
手術は片足だけの場合と、両足同時に受ける場合があります。手術のための入院は、片足の人で3泊4日ぐらい。両足の人で7~10日ぐらい。手術を受けた日は薬で痛みをコントロールしますが、2日目からは自分で歩いてトイレに行ける人がほとんどです。退院後はしばらく松葉づえなどを使って徐々に自分の足だけで歩くように慣らしていきます。個人差もありますが、およそ3週間で普通に歩けるようになります。

Chapter5

セルフケア

残念ながら、外反母趾の予防につながる決定打はありません。しかし、自分で毎日コツコツできることはいくつかあります。
まず、もっとも重要なのは足に負担のかかりにくい靴選びです。日本人は「ややゆるめ」の靴を選ぶ傾向が強いようですが、理想は足首付近にしっかりとフィットして足と靴を一体化させ、つま先周辺には十分な空間のあるもの。スニーカーが、「毎回しっかり靴ひもをゆるめて、またしめ直した方がいい」と言われているのはこのためです。
足指を動かして、指のつけ根の筋肉を鍛えるエクササイズも有効です。たとえば、いすに座って床に広げたタオルを足指だけで寄せていく「タオルギャザー」、座った体勢で足指でグー、チョキ、パーを繰り返す「足指じゃんけん」など。1日靴の中で疲れ切った足指をリラックスさせるためにも、ぜひ習慣にしたいものです。

Chapter6

費用の目安

最初の診察から検査を受け、治療方針が決まるまでに、初診料や検査費用がかかります。人によって必要な検査は違いますが、すべて健康保険が適用されます。
医療用インソールは片足2万円前後ですが、ほとんどの人が両足分を作成します。健康保険が適用されますから費用支払いの後、3か月後に還付されます。適用は1足分だけとなります。次に保険適用が受けられるは1年半後です。仕事の都合などで複数のインソールが必要な人は、2足目以降の製作は自費になります。
手術そのものの費用は、片足およそ10万円前後ですが、手術の方法や入院日数などによって違います。術前検査や麻酔などの費用もあり、片足でおよそ15~20万円が目安として考えられます。両足の手術だと、入院期間も延びるので、さらに10万円前後必要になるでしょう。手術にも健康保険が適用されますが、差額ベッド代など、入院にかかる雑費があることも心にとめておきましょう。

Chapter7

ドクターからのアドバイス

外反母趾は、他人が見るとかなり曲がっているのに、本人は痛がっていないことがよくあります。外反母趾を治療するかどうかは「痛いかどうか」「痛みが生活にどの程度影響するか」によって決まります。足に痛みを感じるのなら、ぜひ一度足の専門医の診察を受けてください。「今はまだ痛みは感じない」という人でも、変形が進んでくるなど、気になることがあったら医師に相談しましょう。

宇佐見則夫先生

うさみ整形外科院長。 慶應義塾大学医学部卒業後、同大学整形外科学教室入局。稲田登戸病院整形外科部長 、至誠会第二病院整形外科部長、慶應義塾大学スポーツクリニック講師 、 同大学整形外科講師、東京女子医科大学膠原病・痛風・リウマチセンター講師を経て、2012年より現職。日本足の外科学会理事、日本靴医学会理事。