Chapter5

どんな治療方法があるの?

良性発作性頭位めまい症と診断されたら、頭を動かして、浮遊耳石を元の位置に戻すという対処療法が行われます。吐き気がひどい場合は、吐き気止めの薬が処方されることもあります。
頭を動かす方法で代表的なのは、浮遊耳石が後半規管に入り込むパターンに効果がある「エプリー法」、外側半規管に入り込むパターンに効果のある「レンパート法」です。ベッドに横になり、眼振を確認しながら、頭を一定の角度に順を追って動かしていきます。途中でめまいが生じることもありますが、症状が治まるのを待って続けます。医師から頭の動かし方の指導を受けたら、以後は自分で行います。

次に、めまいがなくなった人も、症状を繰り返す人も行える、良性発作性頭位めまい症を改善、予防できる運動療法をご紹介します。可能な運動だけでもよいので、できる範囲で行いましょう。

良性発作性頭位めまい症の運動療法

(1)寝起きの運動をゆっくり繰り返す

ベッドや床に横になって、起き上がる動作を繰り返します。手をついてもかまいません。背を押さえてもらいながら行うと楽です。寝起きの際、2、3秒そのままの位置で止まります。
※腹筋運動ではありません。

(2)床を向く、天井を向く運動を、体全体を使ってゆっくり繰り返す

床を見るように下を向き、ひと呼吸止めます。次に呼吸をしながらゆっくりと天井を見るように上を向き、ひと呼吸止めます。いすに腰かけたり、正座したりして行うことも可能です。めまいがしたら、止まるまでそのままの位置で静止してください。

(3)寝返りの運動を体全体でゆっくり繰り返す

体全体でゆっくりと左右に寝返りをうち、寝返った位置でひと呼吸止めます。絶対に首だけを回さず、体全体で行いましょう。めまいがしたら、止まるまでじっとして、止まったら反対に寝返りを再開します。

運動の目安と注意点

  • めまいの症状を繰り返している場合は、一度の運動で5、6回繰り返します。これを1時間おきに行い、めまいが起きても怖がらずに行いましょう。気分が悪くなったら休んで、落ち着いたら再開してください。
  • 頸椎(けいつい)を痛めることがありますので、首だけを動かして行わないようにしましょう。
  • めまいが改善されても、予防のために1日2、3回は行うようにしましょう。起床時、就寝前には必ず行ってください。
出典:
東邦大学医療センター佐倉病院 耳鼻咽喉科

Chapter6

費用の目安

  • 診察+眼振検査 ………………………………………………………… 
    約 2,000円
  • 診察+眼振検査+聴力検査 …………………………………………… 
    約 3,000円

※いずれも3割負担の場合で、エプリー法などの指導を含みます。

Chapter7

ドクターからのアドバイス

良性発作性頭位めまい症に関係する三半規管の構造は、ほ乳類も両生類も同じです。浮遊耳石が三半規管に入り込んでしまうのは、いわば進化の過程における「設計ミス」のようなもので、めまいは誰にでも起こり得ることです。
しかし、内耳以外が原因のめまいもあるので、何度も症状が出る場合は、一度耳鼻科を受診しましょう。
かかりつけの耳鼻科がない場合は、「めまい相談医」*のいる耳鼻科の受診をおすすめします。ただし、眼振検査で良性発作性頭位めまい症とはっきり診断できるのは、実は受診者の約25%にすぎません。何度か検査を受けるうちに「やっぱりそうだった」と診断できることもあれば、なかなか診断に至らないこともあるのも実情です。

船乗りが船に酔わないように、フィギュアスケートの選手がスピンをしても目が回らないように、人間には揺れや回転に慣れる力があります。なかなか症状が治まらない方も、「こっちに頭を向けるとめまいがくるな」「あ、めまいがきた。しばらくじっとしていよう……」と自分の体と向き合いながら、めまいに慣れる、めまいとうまくつきあうようにしていきましょう。

*一般社団法人日本めまい平衡医学会のホームページにリストがあります

井上耳鼻咽喉科 
院長 井上 里可(いのうえ りか)先生

東邦大学医学部卒業後、自治医科大学耳鼻咽喉科、東京警察病院耳鼻咽喉科を経て、2006年、自治医科大学にて医学博士取得。東邦大学佐倉病院難聴めまい回復センターなどを経て、2010年11月「井上耳鼻咽喉科」開院。2012年4月より、東邦大学医療センター佐倉病院耳鼻咽喉科客員講師。

日本めまい平衡医学会めまい相談医、日本耳鼻咽喉科学会専門医、補聴器適合判定医。