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卵巣機能低下症 【監修:聖マリアンナ医科大学病院 産婦人科 医長 洞下 由記先生】

女性は加齢とともに徐々に卵巣機能が低下し、平均50歳前後で閉経を迎えます。しかし気づかないうちに、通常よりも早く卵巣機能の低下が進んでいることがあります。早期に女性ホルモンが減少することで、さまざまな体の不調が出やすくなるほか、不妊症の原因になることもあります。自らの卵子で望むタイミングで妊娠・出産するためにも、正しく理解し知識を深めましょう。

Chapter1

卵巣機能低下症ってどんな病気?

卵巣が正常に働かなくなり、月経周期の乱れや無月経などが起こることを卵巣機能低下症といいます。卵巣機能の低下自体は病気ではなく、健康な人も加齢によって35歳ごろから徐々に卵巣機能は低下し、45~55歳くらいで閉経するのが自然です。通常よりも早く卵巣機能が低下することを医学的には「卵巣機能不全」といい、40歳未満で閉経状態になることを「早発卵巣不全(早発閉経)」といいます。20代で1000人に1人、30代で100人に1人くらいの割合で早発閉経に至る人がいるといわれます。
卵巣には、卵子の元になる原始卵胞があります。胎児期につくられる原始卵胞は、出生時には約200万個ありますが、その後、数が増えることはなく減少の一途をたどります。この原始卵胞は思春期になると目覚めて卵巣の中で成長していき、毎月1個の成熟卵胞だけを排卵し、妊娠に至らなかった場合、月経が起こります。
それ以外の原始卵胞は毎日消滅していき、1回の月経周期で約1000個が失われるともいわれています。そして卵巣に残っている原始卵胞の数が1000個程度になると閉経します。ですから、卵巣機能は残りの原始卵胞の数によるところが大きく、卵巣機能低下症は、何らかの原因で原始卵胞の数が減少することだと考えられます。

Chapter2

どんな人がなりやすいの?

先天的に染色体異常があるために卵巣機能が低下することや、自己免疫性疾患(甲状腺機能亢進(こうしん)症、アジソン病、重症筋無力症など)の人に卵巣機能低下症が多いことが知られています。早発卵巣不全が卵巣に対する自己免疫性疾患である可能性も考えられていますが、明らかにはなっていません。また、卵巣摘出手術や抗がん剤治療、放射線治療などによって卵巣機能の低下につながることもあります。これらを除くとほとんどの場合、原因は不明です。

Chapter3

どんな症状がでるの?

閉経に至る一般的な過程と同じように、月経周期が短くなったり長くなったりした後に、無月経となります。月経周期が乱れている間は無排卵のことが多く、今まで28日周期で安定していたサイクルが短くなったかと思うと、しばらく月経がなくなったりします。思い当たる人は卵巣機能低下症を疑って早めに婦人科に相談しましょう。
早期に女性ホルモン(エストロゲン)が減少することで、骨粗しょう症や高脂血症になりやすくなったり、ホットフラッシュ(ほてり、のぼせ、発汗など)、うつなどのいわゆる更年期症状が起こりやすくなったりします。
また、こうした心身の症状に加えて、不妊症の原因にもなることが卵巣機能低下症の大きな問題です。

Chapter4

検査と診断

月経不順や無月経などの症状が出る頃には、卵巣機能の低下がかなり進んでいます。原因不明の卵巣機能低下症のほとんどは、それ以前に何年もかけて卵胞の数が減っている期間があり、この間に、血液検査でホルモンの値を調べることで診断できます。
卵巣機能が低下している場合、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)という性腺刺激ホルモン(脳からの指令によって分泌され、原始卵胞の発育や成熟に関与するホルモン)の上昇と、女性ホルモン(エストロゲン)のうちエストラジオールの低下が見られるのが特徴です。
また、アンチミュラー管ホルモン(AMH)という卵巣から分泌されるホルモンの値を測定する検査で、残っている原始卵胞の数を推測できます。ただし、まったく原始卵胞が残っていないことを確実に判断できる検査は今のところありません。
血液検査のほか、超音波検査で卵巣や子宮の萎縮などを確認し、卵巣がんや子宮がん、子宮筋腫など他の婦人科系の病気ではないことも確かめます。年齢や経過などは一人ひとり異なりますので、問診なども踏まえて検査や治療内容を決定します。

診療の流れ

1.問診 2.超音波検査 3.血液検査 4.がん検診 5.診断 6.治療 1.問診 2.超音波検査 3.血液検査 4.がん検診 5.診断 6.治療

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どんな治療方法があるの?

エストロゲンが欠乏することによって起こるさまざまな症状を予防、治療することを目的に、ホルモン補充療法(HRT)を行います。場合によっては、骨粗しょう症の治療薬を併用することもあります。
妊娠・出産を希望する場合、卵巣の機能を高め、排卵を促進するために、ホルモン補充療法を行いながら、排卵誘発剤を使って卵巣を刺激することもあります。ただし、多くの場合、排卵誘発は難しいため、ホルモンをコントロールしながら自然に卵胞発育を待つという考え方もあります。
将来的に子どもを持ちたいという人に卵巣機能低下症が見つかった場合、早めに不妊治療をすすめますが、妊娠・出産はパートナーを含めてさまざまな状況やタイミングも関係することです。まだ現実的ではなく、実際に妊娠する前に閉経してしまう可能性が高い場合は、卵子凍結なども考慮します。がん治療などで卵巣機能低下のリスクを伴う場合には、治療前に卵子を凍結しておくことで妊娠する力を温存できます。

Chapter6

費用の目安

卵巣に残っている原始卵胞の数を予測するアンチミュラー管ホルモン(AMH)検査は、卵巣年齢検査ともいわれ、単独の検査として提供しているクリニックが多くあります。自費診療になるため費用は施設によって異なります。
ホルモン補充療法は保険診療で可能です。妊娠・出産を希望して不妊治療を行う場合は自費診療となり、施設によって治療の内容も費用も異なります。卵巣刺激を行う場合、通常より治療の量も多く、長期となることが多いです。

  • AMH検査  ………………………………
    4,000~11,000円
  • 原始卵胞ホルモン製剤(300単位)を連日注射する場合
    ・1日 …………………………………… 4,000~5,000円
    ・2週間注射 …………………………… 60,000~70,000円
    ・4週間注射 …………………………… 120,000~140,000円
  • 体外受精を行う場合   …………………
    400,000~500,000円

Chapter7

ドクターからのアドバイス

特に10~20代の若い世代では、極端なダイエットや強いストレスなどで無月経になる人も少なくありません。こうした場合、多くはホルモン分泌をコントロールしている脳からの司令がうまく伝わらないという問題によるもので、卵巣性の機能低下とは異なるため、一時的に無月経になっても元に戻ることが多いです。ただし、長く続くと卵巣にダメージがおよぶ可能性がありますので、月経の異常は放置せず、早めに解決することが大切です。
20~40代の女性は、仕事や家庭でさまざまな役割を担う多忙な世代です。検診などを後回しになってしまう人も多いかもしれませんが、卵巣機能の低下に早く気づくためにも、日頃の意識と健康管理が大切です。アプリなども利用して、最低限、自分の月経周期は把握しておきましょう。
喫煙によって卵子の質は低下しますので、妊娠しにくくなることを防ぐ意味でも、禁煙など生活習慣にも注意しましょう。また、子どもを持つ、持たないにかかわらず、女性特有のがんで代表的な乳がん検診と子宮がん検診は欠かさず受けて早期発見に努め、自分の体を知ることが大切です。

聖マリアンナ医科大学病院
産婦人科 医長 洞下 由記先生

聖マリアンナ医科大学医学部医学科卒業後、同大学大学院修了、医学博士取得。2009年より同大学産婦人科学(婦人科)助教として大学病院勤務。専門は、生殖内分泌、がん・生殖医療。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医

URL https://www.marianna-u.ac.jp/hospital/reproduction/