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隠れ貧血(潜在性鉄欠乏性貧血) 【監修:茅場町いとう医院副院長 伊東佳子先生】

隠れ貧血(潜在性鉄欠乏性貧血)は貧血の診断は出ないものの、体内にストックされている鉄分が不足している、いわば貧血予備軍の状態です。潜在性鉄欠乏性貧血や鉄欠乏状態と呼ばれることもあります。月経がある女性のうち、貧血と診断される人の割合は約10~20%。ここに隠れ貧血を含めると、さらに多くの人が該当します。そして、隠れ貧血は、貧血と同じように深刻な不調を引き起こします。心当たりがある人は、内科や婦人科で相談してみましょう。

Chapter1

隠れ貧血ってどんな状態のこと?

貧血は、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが不足した状態を指します。
体内の鉄とたんぱく質が結びついてできたヘモグロビンは酸素を運搬する役割を担っているため、ヘモグロビンが不足すると十分な量の酸素が体内に行き届かなくなります。
それに対して隠れ貧血は、貯蔵鉄とも呼ばれるフェリチンが体内で不足している状態を指します。
フェリチンは、主に肝臓にストックされているたんぱく質の一種で、細胞内に鉄を貯蔵し、必要に応じて利用できるよう調節する働きを持っています。
ヘモグロビンが減少すると血液中の鉄分を利用してヘモグロビンが作られます。このとき、血液中の鉄分が足りないと、フェリチンとしてストックしてある鉄分を利用してヘモグロビンを作ろうとします。
体内の鉄分量を調整する役目を持つフェリチンが減少し過ぎると、隠れ貧血になるわけですが、その状態で鉄の補充が間に合わなくなればヘモグロビンが足りない状態へと移行します。
そうして、ヘモグロビンの濃度が基準値を下回ると貧血と診断されることになります。

Chapter2

どんな原因で隠れ貧血になるの?

月経がある女性は、経血によって鉄が失われるため隠れ貧血になりやすく、特に経血量が多い過多月経の人は注意が必要です。また、鉄分は経血のみならず汗や尿、便とも一緒に排出されるため、日常生活においても失われた分の補充が欠かせません。
鉄分は食事によって体内に取り入れる必要がありますが、意識して摂取しないかぎり十分な量に満たない場合が多いです。血液中の鉄分が不足すれば、貯蔵されていたフェリチンが消費され、隠れ貧血を引き起こすことになります。

貧血の原因には鉄不足のほかに、白血病やがんなどの疾患、ビタミン欠乏、遺伝などがあり、原因によってはフェリチンが基準値より高くなることもあります。検診などで軽度の貧血が見つかった場合は、鉄不足だと自分で判断せずにまずは受診することが大切です。

Chapter3

どんな症状が出るの?

隠れ貧血になると体力の低下を感じることが多いようです。鉄分自体が不足していることにより、皮膚や爪が弱くなる、舌や口の中が荒れる、食欲低下や氷を好んで食べるようになる、イライラしやすくなる、足がムズムズするなどの症状が出ることもあります。

また、貧血に至った場合にもさまざまな症状がありますが、顕著なのは、息切れのしやすさや疲れやすさです。「体力がなくなった」と訴える人が、実は貧血だったというケースは少なくありません。
セルフチェックの目安としては、ほかの人のペースに合わせて駅の階段を上ったときに息切れが激しくなっていないかどうか。もしも、あなただけがひどく息切れしているようなら、貧血の可能性が高いでしょう。
鉄不足によって酸素を運搬する機能が低くなり、ほかの人と比べて息切れや疲れが出やすくなっているのです。

Chapter4

検査と診断

内科や婦人科などで血液検査を行う際は、ヘモグロビン、フェリチン、総鉄結合能(TIBC:鉄分を運ぶたんぱく質の一種)、血清鉄(Fe:ヘモグロビンの構成因子の一つ)などの項目をチェックしています。これらの数値によって、貧血や隠れ貧血などの判断をするわけです。
ただし、健康診断などで行われる一般的な血液検査には、多くの場合、フェリチンや総鉄結合能の検査は含まれていません。隠れ貧血の疑いがあるようなら、その旨を医師に伝えて検査を受けてみるといいでしょう。

診療の流れ

1.問診 2.血液検査(ヘモグロビン、フェリチン、総鉄結合能、血清鉄などの項目をチェック) 1.問診 2.血液検査(ヘモグロビン、フェリチン、総鉄結合能、血清鉄などの項目をチェック)

Chapter5

どんな治療方法で、その費用の目安は?

血液検査の結果を踏まえ、鉄分を補充する治療を行います。具体的には、鉄分を配合した錠剤やシロップを服用したり、注射や点滴をしたりすることもあります。
費用の目安は、保険診療での初診時に鉄剤2週間分を処方されるケースで3000~4000円程度。処方される鉄剤の種類などによって金額は変動します。そして多くの場合、初診後2~4週間にわたって鉄剤を服用し、再び血液検査を行って経過を観察。さらに2~3か月ほど鉄剤を服用し、血液検査を行います。

Chapter6

隠れ貧血を起こさないための予防法は?

前述したように、経血や汗、尿、便などで失われる鉄分を補充するために、バランスのよい食事をしっかりととる必要があります。特に、赤肉や赤身の魚などには吸収率が高いヘム鉄が含まれるため、積極的に食卓にあげましょう。
ヘム鉄以外の鉄分(非ヘム鉄)が含まれる卵や豆、緑黄色野菜なども取り入れやすいのでおすすめです。
そのほか、赤血球やヘモグロビンの材料となるたんぱく質、鉄分の吸収や赤血球を作るのに必要なビタミン、 葉酸なども十分にとりたいものです。
月経時や激しい運動後などは特に鉄分が不足しやすいため、普段よりも鉄分を意識した食事を心がけましょう。

Chapter7

ドクターからのアドバイス

バランスのよい食事は、何よりの貧血予防になります。ただし食事から摂取する鉄分は、体内で吸収されにくいという性質があり、吸収率の高いヘム鉄でさえ含有量の15~25%しか体内に取り込むことができません。
月経のある女性の場合、一食に必要な鉄分量は3.3ミリグラムほどとされていますが、この量をクリアできている人はなかなかいないというのが現実です。
食事だけで鉄を補充しきれないときには、サプリメントを活用するのも一つの方法です。
できれば医師の検査を受け、相談のうえで適切なサプリメントを導入しましょう。
また、調理のときに鉄製のフライパンや鍋を使ったり、鉄瓶で沸かしたお湯を飲用するのもおすすめです。

ドクターからのアドバイス

茅場町いとう医院
副院長 伊東佳子先生

日本内科学会総合内科専門医。埼玉医科大学卒業後、埼玉医科大学総合医療センター第四内科(現:腎・高血圧内科、神経内科)に勤務。現在は、茅場町いとう医院と、つぶく医院(日本橋小網町)の兼務。

URL http://www.kayabacho-itoiin.jp/

※掲載内容は、2021年11月時点の情報です。