女性が気をつけたい病気 女性に多い病気や症状について解説します 女性が気をつけたい病気 女性に多い病気や症状について解説します

片頭痛 【監修:東京頭痛クリニック理事長 丹羽 潔先生】

日本人の10人に1人が繰り返し起こる「片頭痛」の発作に約1000万人が悩んでいます。特に30~40代の女性に多く、患者のうち7割以上は激しい痛みで寝込むなど、日常生活に何らかの支障をきたす方もいます。対処法を間違うと慢性化してしまうことも。正しい知識を知って上手に対処しましょう。

Chapter1

片頭痛ってどんな病気?

一般的に片頭痛は「片側に起こる心臓の拍動と同期するズキズキした痛み」が特徴的といわれます。しかし、こうしたケースは約6割で、両側が痛んだり左右が交互に痛んだり、後頭部が重くなるような症状も存在します。したがって、階段昇降などの日常動作や頭を下げたとき増悪する、吐き気を伴う、光や音に非常に敏感になる、といった特徴が診断の決め手になります。
中には、閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる症状(キラキラしたりギザギザした光のようなものが見え視野が欠けてくる)や感覚の異常などの前兆が起こる場合もあります。また、発作の数時間~2日前からコリとは違う首筋や肩の異常な張り、あくびが出る、眠気、疲労感、集中困難、めまい、おなかがすくなどの予兆を感じる人もいます。ただし、前兆・予兆が全くない人もいます。同じ片頭痛でも軽症から重症まで個人差があります。
片頭痛は遺伝性が高い病気であり、両親が片頭痛持ちであれば75%以上の確率で片頭痛になります。母から娘への母系遺伝が多いため女性に多く見られます。また、月経周期に伴うホルモン変動が誘因になること、加えて一女性であり、母親、職業人、妻など社会的にさまざまな役割を担いストレスを抱えやすい背景があることなども、女性に多い一因といえるでしょう。

Chapter2

他の頭痛との鑑別

頭痛にはさまざまなタイプがあり、そのうち片頭痛は一次性頭痛(慢性頭痛)の一つです。片頭痛、群発頭痛、緊張型頭痛を併せて3大慢性頭痛(表)と呼ばれ、片頭痛と緊張型頭痛を混合している患者さんも多く見られます。

3大慢性頭痛の特徴

他の病気や原因があり、その症状として起こる頭痛(二次性頭痛)もあります。くも膜下出血、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、髄膜炎など命に関わる危険な頭痛を見分けることが大切です。それぞれ特徴があり、頭痛だけで判断するのは難しいですが、目安として「50歳以上で今までに経験したことのない頭痛が起きたら危険な頭痛の可能性が高い」と覚えておくと良いでしょう。突然起こる、痛みが長く続く、頭痛以外に発熱など他の症状がある、直近1か月の間にだんだんひどくなるといった場合も要注意です。

Chapter3

どんな原因で片頭痛になるの?

片頭痛の痛みは、脳の血管が拡張することによって起こります。脳血管をコントロールしているのは三叉神経で、ストレスからの解放、不規則な睡眠、天気、ホルモン変動、特定の食べ物など何らかの誘因によってセロトニン(幸せホルモンと呼ばれる脳内の神経伝達物質)が消費されると、三叉神経が刺激されてCGRPやサブスタンスPと呼ばれる物質が放出され、血管を拡張させます。その三叉神経の刺激が血管周囲に炎症を起こし、痛みを発生させます。このCGRPは本来、血圧の急激な低下やショック状態など脳が危機的状況に陥ったときに脳循環を維持しようとする役割をはたす重要な物質なのですが、片頭痛の脳は、体や環境のちょっとした変化でも非常事態であるかのように敏感に反応し、必要以上にCGRPを放出してしまうのです。
このような片頭痛の発作を繰り返すと、脳が過敏になって痛みを記憶してしまい、頭痛発作がないときも常に痛み信号が発信されるようになります。月に15日以上頭痛発作が起こると治りにくい「慢性片頭痛」となります。市販薬の乱用なども関係しますので、自己判断せず、早めに専門医のもとで適切な治療を受けることが大切です。

Chapter4

診断と治療 費用の目安は?

初診時には、他の頭痛を鑑別するために頸椎のX線検査や脳のMRI検査などをする場合が多いですが、基本的に慢性頭痛は採血などの検査ではなく、専門医による詳細な問診と診察から診断します。

治療は急性期治療と予防療法に大別されます。急性期は、迅速かつ確実に痛みやその他の症状を消失させ、活動できるようにすることを目標に、症状に合わせて薬を選択します。多種多様な薬がありますが、おおまかに以下の図のように考えます。

強い片頭痛発作回数が1か月に2回以上もしくは6日以上片頭痛発作がある場合、鎮痛薬を毎日連用しなければならないなど日常生活への支障が大きい場合、トリプタンが効かない場合などは予防療法が主体になります。発作の頻度や程度、持続時間を減らし、生活の質を改善することが目標となります。
予防薬には従来、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、抗てんかん薬、抗うつ薬などが使われてきましたが、効果が不十分だったり、眠気などの副作用が強い場合もありました。近年、「抗CGRP抗体製剤」という、片頭痛が発生する過程で放出される原因物質(CGRP)をブロックする注射薬が開発され、安全性も高く効果を発揮しています。現在、さまざまなタイプの新薬も開発途上ですが、薬剤費が高額であることと、効かない人もいること、管理が難しいことなどから処方できるのは専門医に限定されています。

費用の目安(全て保険診療、3割負担の場合)

  • 初診(初診料+検査料) ………………………………
    約11,000円~13,000円
  • 再診 ………………………………………………………
    約1,000~1,500円
  • 薬剤費
    ・抗CGRP抗体製剤 =1回12,470円(アイモビーグ®、アジョビ®)
    ~13,500円(エムガルティ®)(月1回の皮下注射)、
    エムガルティ®のみ初回は2本で27,000円
    ・その他鎮痛薬・トリプタンなど =1か月分約1,000円~1,500円

Chapter5

片頭痛の予防法は?

片頭痛には遺伝的要因も深く関係する一方で、生活習慣病のような側面もあります。ストレスやストレスからの解放、気候、食べ物など、さまざまなことが引き金となって片頭痛が起こります。誘因となりやすいものは以下の通りですが、人により異なるため、「頭痛日記」をつけてどのようなものが悪さをして片頭痛になったかを書き出し、点数評価をすることをおすすめします。

片頭痛の誘因

  • ストレス、週末などストレスからの解放
  • 寝過ぎ、寝不足(睡眠時間は6~9時間が良い)
  • 人混みや騒音、まぶしい光、強いにおい
  • 気候・気圧の変化
  • 月経周期に伴う女性ホルモンの変動
  • 遺伝的要因(母親も頭痛持ちということが多い)
  • 特定の飲食物
    チョコレート、チーズ、ナッツ、柑橘系(チラミンという成分が血管収縮後に強く拡張させる)
    赤ワイン(チラミン、フェニルエチルアミン、ヒスタミン)
    昆布などのうまみ成分であるグルタミン酸ナトリウム
    ノンカロリー飲料(人工甘味料アスパルテーム)
  • 空腹時(ダイエット、朝食抜きなどの低血糖)

日常生活では、強い光・騒音・人混みを避ける、寝過ぎ・寝不足を避ける、ストレスをためない、バランスのとれた食事をきちんととる、体調の悪いときの飲酒を避ける、無理な姿勢を続けないなどが一般的な対処法になります。そのうえで、自分はどんなときに頭痛発作が出やすいのかを把握し、自分なりの対処法を見つけていくことが大切です。誘因の中でも、気候やホルモン変動などは自分では変えられませんが、食事や睡眠などの生活習慣は変えることができます。例えば、10点満点として遺伝素因が7点の人は寝不足になっただけですぐ片頭痛が出てしまいますが、遺伝素因が4点の人は、月経、寝不足、低気圧などが重なるときに注意すれば、調子の良いときにはチョコレートを我慢しなくても良いかもしれません。
光に過敏なら外出時に冬でもサングラスをかける(濃い色ではなく薄いグレーや緑が良い)、騒音が苦手なら誰かと会うとき以外はイヤホンで心地よい音楽を聴く、月経中に低気圧が来て頭痛が起きやすいときにはあまりスマホを見ないようにするなど、自分に合う生活習慣を工夫して見つけましょう。
それでも発作が起きてしまったら、応急処置として患部を冷やし(耳から前の頸動脈付近は冷やして良いが、後頭部は首や肩の筋肉の緊張につながるため冷やさない)、暗い場所で休みましょう。発作が起こっているときは湯船につかるのは避け、シャワーにする方が良いでしょう。

Chapter6

ドクターからのアドバイス

最も大切なのは「鎮痛薬を飲み過ぎない」ということです。日本は市販の鎮痛薬(OTC製剤)が豊富で簡単に入手できるため、通院の手間を考えると手軽に利用できるのですが、市販の鎮痛薬にはメインの鎮痛成分だけでなく、作用を早める無水カフェインやブロモバレリル尿素、作用を強めるアリルイソプロピルアセチル尿素などさまざまな成分が複合されています。それで痛みを抑える経験をすると、本当は必要ない場合にも頼ってしまい、「薬物乱用頭痛」を招きやすくなります。実際に、世界の中でも日本は薬物乱用頭痛が多い国となっています。
「一度に飲む量を少なくしよう」と誤解されがちなのですが、薬物乱用頭痛の判断基準は「1か月のうちに薬を飲む日が何日あったか」ということです。薬が必要ない日を1か月に20日以上作ることが目標となります。極端な例で言えば、1錠×10日より5錠×3日でおさまる方が良いのです。
慢性化して薬剤乱用頭痛になってからではなかなか治しにくいこともありますので、月に10日以上薬を飲むようになったら、ためらわず頭痛専門医を受診してください。

東京頭痛クリニック理事長
丹羽 潔先生

昭和62年東海大学医学部卒。日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本神経学会専門医・指導医、日本頭痛学会専門医・指導医・代議員、日本脳卒中学会専門医・評議員、日本医師会認定産業医。ドイツミュンヘン大学神経内科留学、JCBF&Metabolism Young Scientist賞受賞(Nitric Oxideと脳循環の研究)、米国ミネソタ大学神経内科留学。2015年に頭痛専門クリニックを開院。自身も3大慢性頭痛を経験し、患者に寄り添う診療を行っている。

※掲載内容は、2022年4月時点の情報です。