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便秘 【監修:医療法人鉄蕉会亀田総合病院消化器外科 部長 高橋知子先生】

便秘は原因や症状によって、さまざまなタイプがあります。近年では、直腸にある便を快適に排出できないタイプ(便排出障害)も注目されています。自分のタイプを知って適切に対処しましょう。

Chapter1

便秘ってどんな病気?

慢性的な便秘は、自分の経験からさまざまな意味にとらえられる傾向がありますが、医学的には、①「排便回数や排便量が少ないために便が大腸に滞った状態」または②「直腸内にある便を快適に排出できない状態」をいいます。大きく大腸の形によるもの(器質性)と大腸の動きの問題(機能性)に分けられ、それぞれに排便回数が少なくなるもの(排便回数減少型)と便をうまく出せないもの(排便困難型)があります(表)。 また、この分類に当てはまらないタイプでも、大腸がんの症状の一つとして便秘になることもあります。急に便秘になる、出血を伴う、便秘と下痢を繰り返す、などの場合は放置せず、検査を受けましょう。

Chapter2

どんな原因で便秘になるの?

女性を中心に頻度が多いのは、加齢などによって腸の動きが少なくなり、食べたものが大腸を通過するのに時間がかかることによって排便回数が少なくなるタイプ(特発性と呼ばれる)です。もう一つは、そもそも便のもとになる食事量が少なく、食物繊維の摂取量が不足しているために、大腸の動きは正常でも排便回数が少なくなるタイプです。この2つで便秘の患者さんの大半を占めると考えられます。
また、女性は月経周期のなかで排卵から月経前の黄体ホルモン(腸管の動きを抑える働きがある)が優位になる時期に、ホルモンの影響で腸の動きが鈍くなる傾向があり、排便回数が少なくなります。妊娠中も同様に黄体ホルモンが優位なので便秘がちになります。

Chapter3

排便困難型(便排出障害)の原因は?

便意はあってもうまく出せない場合、器質性または機能性の便排出障害を疑います。それぞれ次のような原因が考えられます。

器質性便排出障害の原因

直腸瘤(りゅう)

女性は体の構造上、腟と直腸の間にある壁となる組織がもともと弱く、出産やいきんで負担をかける排便を長年繰り返していることなどによって、この部分が伸びやすくなってしまいます。すると臓器を支えきれず、直腸が腟側に飛び出して膨らんできます。これが直腸瘤(りゅう)です。その結果、通常なら肛門から出るはずの便が、飛び出た下側にたまり、うまく出せなくなります。

直腸瘤(りゅう)

機能性便排出障害の原因

骨盤底筋協調運動障害

通常、便やガスがたまって直腸の壁が伸ばされると、その刺激が仙骨神経を介して大脳に伝わり、便意を感じます。同時に、肛門にも反射が起こり、それが硬い便なのか、ゆるい便なのか、ガスなのかを瞬時に判断します。便ならトイレまで我慢するために肛門の筋肉を締めたり、排便できる状況になったときに筋肉をゆるめたりして便を出すというしくみが無意識のうちに働いているのですが、何らかの原因で筋肉の動きがうまくできずに排便しづらくなることがあります。

腹圧の低下

加齢などにより横隔膜や腹筋などの筋力が低下することで、いきむ力(腹圧)が弱くなり、便を排出しにくくなります。

直腸感覚や直腸収縮力の低下

直腸にある程度便がたまると便意を感じ、直腸がさらに収縮して肛門近くまで便が下りてきますが、直腸の収縮力や感覚が低下して、便が下りてきても便意を感じにくくなることがあります。糖尿病や神経の病気が原因の場合もあります。

Chapter4

検査と診断

まずは問診と必要に応じて大腸がんを鑑別するための内視鏡検査を行い、タイプに合わせて食事改善や投薬などを行います。それでも改善しない場合は必要に応じて以下のような検査を行うこともあります。

排便造影検査

バリウムと小麦粉などの粉を混ぜた疑似便を肛門から直腸に入れて便意を感じさせ、排便を疑似的に再現して腸の動きや排便状態をエックス線で撮影する検査

バルーン排出検査

直腸に入れたバルーン内へ水または空気を注入し、バルーンが容易に排出されるかを調べる検査

直腸肛門内圧検査

いきんだときと安静時の直腸と肛門の内圧を測定する検査

直腸感覚検査

直腸に入れたバルーン内へ水または空気を注入し、便意を感じたときの注入量を調べる検査

Chapter5

どんな治療方法があるの? 費用の目安は?

便の硬さを、硬くもなく、ゆるくもなく、ちょうどよい状態にすれば解決することが多いので、まずは食事と排便習慣を見直し、必要な場合は薬を使用します。硬い便に対しては、便をやわらかくする薬が第一選択薬になります。便の硬さがちょうどよくても排便回数が少ないという人は、大腸の動きが遅いことを疑って、大腸の動きを刺激する薬を使うこともあります。
食事改善や薬でも便秘が改善せず、お尻の周辺に便がたまってうまく出せないことが疑われる場合、排便造影などの検査を行います。直腸瘤(りゅう)や直腸重積など器質性の原因がある場合は、まれに手術を行うこともあります。機能性の排便障害の場合は、「バイオフィードバック療法」(肛門筋肉の収縮を電子機器を介して波形で映し出し、画面を見せながら、骨盤周辺の筋肉を締める、ゆるめる運動を繰り返し、意識的な動作感覚を覚える方法)や「バルーン排出訓練」(直腸内に水または空気で膨らませたバルーンを入れ、連結している管を軽く引いて排せつを促し、排便の感覚を覚えていく方法)を行います。
これらの一般的な治療は保険診療(バイオフィードバックやバルーン排出訓練は保険適用外)で、人により1~3割の自己負担、これに薬剤費が加わります。

Chapter6

便秘の予防法は?

まずは欠食しないことが大切です。1日のうち2回の食事の内容がよくても、1回食事を抜けば食物繊維の摂取量が不足してしまいます。特に、米類、パン類、麺類などの主食で1日の半分程度の食物繊維を摂取していますので、主食を食べるように意識しましょう。なかでも白米にはムチンという質の良い食物繊維が豊富に含まれていますので、できれば3食のうち2食は白米を食べるようにすると、便の硬さをちょうどよい状態に保ちやすくなります。食物繊維は不溶性食物繊維(根菜類、キノコ類など)ばかりに偏ると便が硬くなりますので、不溶性と水溶性(海草類、くだものなど)をバランスよく取りましょう。
もう一つ、排便習慣を見直すことも重要です。便意がないのに毎日決まった時間にトイレでいきむのは骨盤底筋に負担をかける行為なので厳禁です。1日出なくてもあせらず、便意を感じてからトイレに行き、1回の排便で出しきろうとせず、図のような姿勢で腹圧をかけすぎない排便習慣を身につけましょう。

排便しやすい姿勢とコツ

  • 高さ13~15cmの足台を置く。
    幅は腰幅まである広いものがおすすめ。
  • 股関節より膝が少し高く、前か横の壁を押すようにして背骨を伸ばすような姿勢で。
  • 息を吐きながら、できるだけ腹圧をかけず、骨盤底筋に負担をかけないように排便する。

Chapter6

ドクターからのアドバイス

自分の便秘のタイプを分析し、排便回数が少ないのか、便意はあるが出しづらいのかなどを見極めましょう。排便回数が少ない場合は、食べているものが少なすぎないか、主食や食物繊維はバランスよく十分取れているかを見直してみましょう。
食生活を見直すことで半数くらいの人は改善が見られます。なかなか野菜の調理ができないという人は市販の総菜などを利用したり、サプリメントを取り入れたりしてもよいですから、自分に合う方法で、よい習慣を継続していくことが最も大切です。排便習慣も同様で、加齢によって後々さまざまな弊害が出ないよう、若いときから骨盤底筋に負担をかけすぎないように使っていく習慣をつけましょう。
なお、薬を使う場合、市販の下剤はほとんどが大腸刺激性下剤なので、大腸の動きが鈍くなっている人にはある程度効くのですが、腸の動きに問題がない人が使うと腹痛が起こることが多いです。刺激性の便秘薬には依存性があるともいわれていますので、長期間、市販の下剤に頼るのはやめ、消化器内科や消化器外科を受診しましょう。

医療法人鉄蕉会亀田総合病院消化器外科部長
高橋知子先生

1994年東京女子医科大学卒業。社会保険中央総合病院大腸肛門病センターなどを経て、2013年より亀田総合病院に勤務。2018年より現職。専門は肛門疾患、排便機能障害、分娩後骨盤底障害など。日本大腸肛門病学会専門医・指導医・評議員。亀田京橋クリニック(東京)にて女性のためのこう門お通じ外来、産後骨盤トラブル外来を開設。

※掲載内容は、2022年10月時点の情報です。