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石灰性腱炎けんえん(石灰沈着性腱板炎) 【監修:AR-Ex尾山台整形外科 東京関節鏡センター 副院長 平田正純先生】

肩関節にリン酸カルシウム成分が沈着することで痛みが出る「石灰性腱炎」が40~50代の女性に多く見られます。適切な治療をしないと悪化してしまう可能性もあるため、放置せず、早めに医療機関を受診しましょう。

Chapter1

石灰性腱炎ってどんな病気?

肩関節の周囲にはいくつかの筋肉や腱が付いています。これらが複雑に組み合わさることによって、肩をさまざまな方向に動かすことができます。「石灰性腱炎」とは、「腱板(けんばん)」と呼ばれる内側に付いている筋群に、リン酸カルシウム結晶(石灰)が沈着し、炎症を起こす病気です。40~50代の女性に多く見られ、突然、激烈な痛みが起こることで始まる場合が多いという特徴があります。
石灰の沈着は、股関節など体のさまざまな部位で発生しますが、特に肩の腱板で起こることが多く、「石灰沈着性腱板炎」とも呼ばれています。急に発症するときは片側の痛みが多いですが、慢性的に両側が痛くなることもあります。

石灰性腱炎のエックス線画像


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左肩に石灰化が認められる

(画像提供:AR-Ex尾山台整形外科)

Chapter2

どんな原因で石灰性腱炎になるの?

なぜ石灰化するのか、そのメカニズムは明らかになっていませんが、加齢による組織の変性が何らかの原因になっていると考えられています。石灰が急速に蓄積することによって内圧が高まること、そこに炎症物質が多く発生することなどにより、痛みが発生します。また、女性に多く発症する原因も分かっていませんが、ホルモンバランスの変化などが影響していると考えられています。

Chapter3

どんな症状が出るの?

急性期は激烈な痛みで発症することが多く、腫れや熱感を伴い、ほとんど肩を動かすことができません。夜間痛も多く見られ、激痛で眠れないなど、人によっては救急車を呼ぶほどです。一般的な治療で強い痛みは軽快しますが、一部の人では慢性的に中等度から軽い痛みが続くことがあります。慢性化して石灰が大きいと、腱や骨同士がぶつかったり引っかかったりすること(インピンジメント)で、腕を上げたりするときに痛みや違和感が起こります。異物が存在するために腱の働きが損なわれて力が入らなかったり、可動域が制限されたりすることもあります。
石灰は、当初ドロッとしたミルク状なのですが、時間経過とともにペースト状、カチカチの石こう状へと硬くなっていきます。ただし、石灰がたまると全ての人が強い痛みを生じるわけではなく、中にはエックス線検査の画像で石灰が写っているのに痛みを自覚しない場合もあります。

Chapter4

検査と診断

痛みの部位や動きの状態を見る理学所見と、エックス線検査の画像で石灰沈着の病態や位置を確認します。また、超音波検査でも石灰沈着を確認できるので、このとき同時に吸引する治療も行われています。
肩関節周囲炎(俗にいう五十肩)あるいは腱板断裂など、よく似たほかの病気と鑑別するためにもこれらの検査で石灰を確認し、診断します。画像を見ると、古い石灰の上に比較的新しい石灰がついている人もいます。過去に肩の痛みを自覚していたものの「五十肩かな」と思ってそのままにしていた人が再び痛みを自覚する場合もあり、慢性期になってはじめて医療機関を受診する人もいます。

Chapter5

どんな治療方法があるの? 
費用の目安は?

一般的には消炎鎮痛剤の内服、腱板内へのステロイド剤と局所麻酔剤の注射などが行われています。また、急性期のミルク状の石灰は、針を刺して吸引・洗浄する治療が効果的です。超音波検査では、石灰の大きさや場所をはっきりと把握できるため、検査・診断と同時に治療を実施でき、大半は初回で強い痛みが改善されます。この手技を実施できる医療機関は限られています。
慢性期については、一部吸引を試みる場合もありますが、石灰が硬くなっているため、一般的な治療に加え、理学療法によるリハビリテーションなどの保存療法が中心となります。肩甲骨と上腕骨の正しい動きを訓練し、機能改善と再発予防を図ります。強い痛みが半年以上続く場合は、関節鏡による手術を検討することがあります。小さい切開から関節鏡を挿入し、石灰をかき出し、腱板に生じた穴を修復する手術で、4~5日間入院します。

これらの一般的な治療は保険診療で、人により1~3割の自己負担です。初診料、検査費用に加えて、治療内容により薬剤費、手術費などが加算されます。なお、医療機関によっては、慢性化して硬くなった石灰を砕きながら吸引する新しい治療や、衝撃波を皮膚の上から患部に照射することで石灰を壊す体外衝撃波治療を導入しているところもあります。いずれも保険適応外の治療です。

Chapter6

石灰性腱炎の予防・セルフケアは?

急性期に炎症が強いときは、冷やすと痛みが和らぐことがあります。また、睡眠時に肩が痛い場合は姿勢を工夫してみましょう。

睡眠時に肩が痛いときの姿勢

肩甲骨が沈み込んで肘が肩より下がる姿勢だと痛みが出やすいといわれている。
肘の下にタオルを丸めたものを挟む、抱き枕を抱える、リクライニングの状態にする、などの工夫をするとよい。

日常的には、肩を動かしたときに肩甲骨や上腕骨が周囲と接触して過度のストレスがかからないよう、正しい姿勢と肩の動かし方を保ちましょう。長時間スマートフォンを見続ける、デスクワークなどで前傾姿勢を続けると、肩が前方に巻いてきて腱板にもストレスがかかりますので要注意です。筋肉が硬くなって固定(拘縮こうしゅく)しないように肩を適度に動かして可動域を維持することも大切です。

Chapter6

ドクターからのアドバイス

クリニックでは、肩の痛みがあるのに「五十肩だから自然に治る」と我慢して悪化させてしまい来院される人を見かけます。「四十肩」「五十肩」とは大昔から使われてきた俗称です。今のような病名がない時代に五十肩といわれていたものの中には「石灰性腱炎」も含まれていたかもしれません。しかし、石灰性腱炎の激しい痛みは特徴的で、明らかに区別できるものです。石灰の沈着がある場合は、適切な時期に適切な処置やリハビリテーションを行わないでいると、悪化させてしまう可能性があります。肩の強い痛みを自覚したら、我慢したり放置したりせず、まずは正しい診断と適切な治療のできる医療機関を早めに受診することが大切です。

AR-Ex尾山台整形外科 東京関節鏡センター 副院長
平田正純先生

平成5年高知医科大学卒業。京都府立医科大学附属病院、大阪府済生会吹田病院整形外科医長・同整形外科部長・同リハビリテーション科科長を経て、平成27年より現職。運動器超音波診療の普及に努めている。第34回日本整形外科超音波学会会長。

※掲載内容は、2023年4月時点の情報です。