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急性アルコール中毒 【監修:医療法人秀山会 白峰クリニック医師 岩原千絵先生】

春は歓送迎会など、新年会や忘年会に続きお酒を飲む機会が多い季節。席上で場の雰囲気を優先してつい飲みすぎてしまう、無理にお酒を勧めてしまうことはありませんか。間違った飲酒は「急性アルコール中毒」を引き起こす要因になります。ときに命に関わる急性アルコール中毒の怖さを知って、安全で楽しいお酒との付き合い方を身に付けましょう。

Chapter1

急性アルコール中毒ってどんな病気?

「急性アルコール中毒」はアルコールがもたらす中毒症状の一種です。アルコール中毒には、急性アルコール中毒と慢性アルコール中毒があり、後者は「アルコール依存症」と呼ばれています。アルコール依存症は長期的にアルコールが脳に影響を与えて、自分で飲み方をコントロールできなくなってしまい、根本的な継続治療が必要となる病気です。
一方、急性アルコール中毒は、短時間に大量のお酒を飲むことで引き起こされます。体内の血中濃度の急激な上昇により意識レベルが低下して危険な状態に陥り、適切な対応を取らないと死に至る場合もあります。急性アルコール中毒による救急搬送は歓送迎会や年末年始の時期に多くみられ、搬送者の中には死亡した例もあります。近年搬送者数が最も多かった2019年は東京都で18,212件。年代では20代が最も多く、男女比は半々でした。同年は大阪でも6,713件の救急搬送がありました。コロナ禍等の影響もあり搬送者数は減少していましたが、2022年は再び上昇傾向に転じています。(*1

Chapter2

どんな症状になるの?

人はお酒を飲むとアルコールが血液に溶けて脳に運ばれ、脳内の網様体にある神経細胞がまひしていわゆる「酔った」状態になります。酔いの状態は「爽快期」から、「ほろ酔い期」「酩酊(めいてい)初期」「酩酊期」「泥酔期」そして「昏睡期」まで6段階に分かれており、段階ごとに血中濃度が上がって脳に与える影響が大きくなっていきます。ほろ酔い期までは、皮膚が赤くなったり陽気な気分になったりする程度ですが、段階が進むと次第に理性が失われていきます。
急性アルコール中毒の場合、体内の血中アルコール濃度が短時間で急上昇するため「爽快期」「ほろ酔い期」といった段階を踏まず、一気に「泥酔期」や「昏睡期」になりがちです。まともに立てなくなり、意識が混濁。呼びかけやゆり動かしても反応せず、呼吸回数が少なくなって失禁し、最悪の場合、死にいたります。(*2

アルコール血中濃度と酔いの状態

血中濃度(%) 酔いの状態 脳への影響
0.02
~0.04
爽快期
  • さわやかな気分になる
  • 皮膚が赤くなる
  • 陽気になる
  • 判断力が少しにぶる
網様体がまひして、理性をつかさどる大脳皮質の活動が低下し、抑えられていた大脳辺縁系(本能や感情をつかさどる)の活動が活発になる
0.05
~0.10
ほろ酔い期
  • ほろ酔い気分になる
  • 手の動きが活発になる
  • 抑制がとれる(理性が失われる)
  • 体温が上がる
  • 脈が速くなる
0.11
~0.15
酩酊初期
  • 気が大きくなる
  • 大声でがなりたてる
  • 怒りっぽくなる
  • 立てばふらつく
0.16
~0.30
酩酊期
  • 千鳥足になる
  • 何度も同じことをしゃべる
  • 呼吸が速くなる
  • 吐き気・おう吐がおこる
小脳までまひが広がり、運動失調(千鳥足)状態になる
0.31
~0.40
泥酔期
  • まともに立てない
  • 意識がはっきりしない
  • 言語がめちゃくちゃになる
海馬(記憶の中枢)までまひが広がり、今やっていること、起きていることを記録できない(ブラックアウト)状態になる
0.41
~0.50
昏睡期
  • ゆり動かしても起きない
  • 大小便はたれ流しになる
  • 呼吸回数が少なくなる
  • 死亡
まひが脳全体に広がり、呼吸中枢(延髄)も危ない状態となり、死にいたる

(資料:アルコール健康医学協会の資料を基に作成)

出典:政府広報オンライン「病気予防」

Chapter3

急性アルコール中毒になる要因は?

急性アルコール中毒の要因は、一気飲みのように短時間に大量のアルコールを摂取するような飲み方にあります。体内に急激にアルコールが入るため、血中のアルコール濃度が急上昇し、まひが脳全体に広がって命に関わる危険な状態を引き起こします。また、酒量はいつもと同じでもストレスや睡眠不足などで心身の調子が万全ではない場合や、花粉症などで服用している場合もリスクは高まります。服用しているときのアルコール摂取は基本的にNGです。

Chapter4

急性アルコール中毒の予防法は?

まずは一気飲みなど、短時間に大量のお酒を飲まないこと。もし飲むように勧められても「場の雰囲気を壊したくない」「上司や先輩の勧めだから」などと気遣うことなく、自分の身体を守ることを最優先にしましょう。厚生労働省が2024年3月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」では、健康に配慮したお酒の飲み方として、食事をしながらゆっくりと飲むこと、水をチェイサーにするなどが挙げられています。
同ガイドラインには、個人的な資質やそのときの体調などはあるものの、一般的に女性は男性に比べて体内の水分量が少なく、エストロゲン等の働きによりアルコールの影響が大きくなる可能性があると記されています。こうした性別の違いによる影響等にも留意し、急性アルコール中毒を防ぐようにしてください。


なお、お酒に対する自分の体質を知っておきたい方は「エタノール・パッチテスト」でお酒に対する自分の体質を知っておくのもオススメです。皮膚科やアレルギー科などの医療機関でテストを受けることができます。簡易的に体質を知りたい場合には、パッチテスト用のキットも市販されています。

Chapter5

急性アルコール中毒かも? と思ったら

アルコールが脳に達するまでには時間がかかります。飲み始めてしばらくした頃、周りの人が立ったときにふらついたり、同じことを繰り返し話し始めたりしたら酔いの段階が進んでいる証拠。「ゆすっても呼びかけても反応しない」「呼吸がおかしい」「全身が冷え切っている」などの状態になったら、急性アルコール中毒かもしれません。一刻も早く救急車を呼びましょう。

救急車を待っている間は当該者を絶対1人にしないこと。必ず誰かが付き添い、呼吸や脈を確認してください。ネクタイやベルト等を外して衣服をゆるめ、横向きに寝かせます(回復体位)。あお向けにしていると、おう吐した場合窒息する危険性があるためです。もし吐きそうにしていたら横向きのままで吐かせてください。ただし、無理に吐かせてはいけません。また、体温が下がるため上着や毛布などをかけて暖かくすることも大切です。

回復体位

・横向きに寝かせる・下あごを前に出して気道を確保する・両肘を曲げ上側の手の甲を顔の下に入れる・上側の膝を約90度に曲げ、後ろに倒れないようにする 画像を拡大する(新規ウィンドウを表示)

参考:政府広報オンライン「病気予防」

Chapter6

ドクターからのアドバイス

まず、覚えておいてほしいのは“お酒(アルコール)は薬物”ということ。慢性的に摂取すれば依存症になり、急性の場合は命に関わる危険性があります。お酒は、嗜好品(しこうひん)でもあり、「気分があがる」「コミュニケーションがうまくいく」などのメリットがあるかもしれませんが、飲み方によっては人生に重大な影響をもたらします。世界保健機関(WHO)は2007年に飲酒が及ぼす七つの関連がんを認定しています。肝臓がんや咽頭がんのほか、女性の場合は乳がんも含まれています。1日に摂取する純アルコール量が10g増えるごとに、乳がんの発症リスクは約7%増えていきます。お酒がもたらすこうしたリスクを十分に理解した上で、その場の雰囲気に流されることなく、節度ある適度な飲酒量を守りましょう。

下記の表は、成人男性の値になります。前述の通り一般的に、男性に比べ女性は体内の水分量が少ないため、同じ量を飲んだときの血中アルコール濃度が高くなります。そうした方はこの表よりも少なめにするよう心がけましょう。

「爽快期~ほろ酔い」に相当する酒量(純アルコール20g程度)

お酒の種類 お酒の量 アルコール度数 純アルコール量(約)
ビール 500ml 5% 20g
日本酒 180ml 15% 21.6g
ウイスキー ダブル1杯
60ml
43% 20.6g
ワイン グラス1杯
180ml
14% 20.2g
チューハイ 520ml 5% 20.8g
焼酎 グラス半分
110ml
25% 22g

アルコール量の計算式=お酒の量(ml)
×[アルコール度数(%)÷100]×0.8

(資料:アルコール健康医学協会ウェブサイトの資料を基に作成)

出典:政府広報オンライン「病気予防」

  • *1 急性アルコール中毒による搬送者数(データ出典:東京消防庁/大阪市消防局)
  • *2 政府広報オンライン「病気予防」より

医療法人秀山会 白峰クリニック医師
岩原千絵先生

信州大学卒業後、東京女子医科大学、埼玉医科大学等を経て、2014年より国立病院機構久里浜医療センター精神科勤務。2015年から2017年厚生労働省アルコール専門官を兼任、2020年より医長を経て、2022年白峰クリニック入職。

※掲載内容は、2024年4月時点の情報です。