歯周病にならないための
正しいオーラルケア
最近よく耳にする「歯周病」。歯と歯ぐきの間にたまった汚れが原因で引き起こされる病気です。重症化すると歯を支える骨が溶けてしまうだけでなく、脳梗塞や糖尿病、認知症などの疾患にかかわっているともいわれています。歯周病を防ぐために何より大切なのは正しいケア。健康な体を維持するために口腔(こうくう)内の環境を整えましょう。
歯周病ってどんな病気?
歯周病の原因は、歯と歯ぐきのすき間にたまったバイオフィルム(歯垢)。バイオフィルムはさまざまな病原菌の集合体で体に悪い影響を与えます。
バイオフィルムから放たれた毒素から、自らの体を守るために起きる炎症反応が歯周病と考えられています。歯周病がやっかいなのは、けがと異なり痛みをまったく伴わないこと。「サイレントディジーズ(静かなる病気)」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行して、気がついたら歯を支える骨が溶けていたなんてことも……。しかも歯周病をもたらす病原菌は口腔内だけにとどまりません。歯茎の毛細血管を通して体全体を巡り、脳梗塞や心臓疾患、認知症といったあらゆる疾患とリンクしています。「むせ」など誤って気管に入ることで高齢者に多くみられる誤嚥(ごえん)性肺炎につながることも分かってきています。また、口臭や歯ぐき下がりの原因となるなど、日常生活のさまざまなシーンに悪い影響をもたらします。
健康な歯と歯周病の歯の違い
どんな人がなりやすいの?
「歯周病になるのは高齢者だけ」と考える人がいるようですが、歯周病は年齢や性別に関係なく進行する病気です。成人の半数以上が何かしらの歯周病を持っているといわれていて、年齢が上がるにつれて罹患(りかん)率や重症度も増していきます。個人差はありますが、女性はホルモンバランスの関係から歯周病リスクに変動があるとされています。妊娠期や更年期、初潮を迎えるときなどは気をつけたい時期といえるでしょう。
歯周病の原因は? 予兆はあるの?
遺伝性の病気など特殊な場合をのぞき、歯周病の最たる原因は歯磨きなど日頃のケアが正しくできていないことです。磨き残しが多い人の口には、いろいろな菌が多く住み着いているため歯周病を重症化させる悪い菌が定着しやすいことも分かっています。
歯周病の予兆は歯ぐきに現れます。歯ぐきが赤くなった、腫れている、歯を磨いたら出血するなどがその兆候です。一時的なものと見過ごさず、すぐ歯科医院に行って適切な処置をしてもらってください。歯ぐきが赤黒くぶよぶよする、歯がグラグラ動くような気がするという場合は、歯周病が進行している証拠。要注意です。
歯周病を防ぐには?
歯周病の予防に大切なのは、何をおいても自分に合ったオーラルケア。2つのポイントをご紹介しましょう。
歯間をきれいにする
「毎食後、丁寧に歯を磨いているから大丈夫」という方もいるようですが、大事なのは歯磨きのタイミングや回数ではなく磨き方。歯周病を引き起こすバイオフィルムは、歯と歯の間や歯と歯ぐきの間にあるため、何より歯間の汚れを取ることがポイントです。歯ブラシだけで落ちる汚れは6割程度ですが、歯間ケアを併用することで8~9割まで落とせます。まだ歯間ケアをしていないという方は、ぜひ始めてください。
歯間ケアには、歯間ブラシやデンタルフロスなどが有効です。いろいろなサイズや種類があるので、歯間が広いところには歯間ブラシ、狭いところにはデンタルフロスと、歯間に合わせて使い分けるとよいでしょう。
唾液と舌の状態を忘れずチェック
歯磨きや歯間ケアと同じくらい重要なのが、“唾液”と“舌”のチェック。
唾液は口の中を潤わせ、コーティングする役割を果たしていて、その成分は血液とほぼ同じ。若返りのホルモンや菌を退治する酵素など、いろいろな免疫分子が含まれています。唾液の量は、年を重ねると減っていきます。唾液が減ると抵抗力が下がり、歯周病だけではなく虫歯や口臭といった口のトラブルを招く原因になります。ジェル状の歯磨きや口腔内を保湿するスプレーなどで補うこともできますが、気になるときは歯科医に相談を。
唾液と同様、大事なのが舌の状態。実は歯周病菌は舌にも存在しています。歯を磨くときに合わせてチェックする習慣をつけましょう。健康な舌は薄いピンクですが、汚れていると表面に「舌苔(ぜったい)」という白いコケのようなものがうっすらとついています。この舌苔が厚く、コーヒーなどの色が濃くついているときはかなり汚れているサイン。やわらかいナイロン毛やシリコン製の舌ブラシなどを使って、奥から手前に2、3回やさしくマッサージするように浮かせて汚れをとってください。
ドクターからのアドバイス
誰でも年齢を重ねれば何らかの病気にかかりやすくなりますが、口腔内のケアはそれらの病気を重症化させるかどうかのカギとなる可能性が高いといわれています。歯磨きや歯間ケア、舌のチェックなど、ふだんから自分の口腔内の状態に気をつける習慣をつけましょう。また、通いやすく相談しやすい歯科医を見つけておくことも大切なポイント。定期チェックや歯石の除去などは保険診療の適応範囲内で受けることが可能です。
歯周病は決して侮れない病気ですが、必要以上に怖がることはありません。万一、病気が進行してしまった場合は歯周病専門の歯科医院*にかかるという方法もあります。
健やかな人生を長く楽しむためにも、口腔内のケアも忘れずに。
- *「日本歯周病学会」認定医・歯周病専門医名簿一覧
歯科医、歯学博士、東京科学大学非常勤講師(顎顔面補綴[がくがんめんほてつ])
照山裕子先生
日本大学歯学部卒業。同大学院歯学研究科にて「顎顔面補綴」を専攻し、博士号取得。歯科医歴23年、「口腔ケアの伝道師」と呼ばれる。『“食べる力”を落とさない!新しい歯のトリセツ(日経BP)』、『歯科医が考案 毒出し歯みがき(アスコム)』など、歯科医療に関する著書多数。
※掲載内容は、2024年11月時点の情報です。