不眠症 【監修:眠りと咳のクリニック虎ノ門院長 栁原万里子先生】
布団に入ってもなかなか寝つけない、夜中に何度も目が覚めるなど睡眠に悩んでいる人も少なくないでしょう。上手く眠れないことによって日中の生活へ支障をきたしている場合には不眠症が疑われます。何かをきっかけに始まった「上手く眠れない」が慢性化してしまうことも。こんなことで受診してもいいのかな?年齢のせいかも…と悩まずに、睡眠外来などの専門医に相談し、不眠をうまく乗り切る工夫を医師とともに見つけていくことが大事です。
不眠症ってどんな病気?
眠ろうとしてもなかなか寝つけない「入眠困難」、眠りが浅くてすぐに目が覚める「中途覚醒」、朝早い時間に目が覚めてしまう「早期覚醒」といった症状を不眠症状といいます。眠る環境や時間が適切であるにもかかわらず、不眠症状が少なくとも週に3回以上あり、日中の活動に支障を生じている場合は不眠症(不眠障害)を強く疑います。不眠症状を生じてから3カ月未満の場合を短期不眠障害、3カ月以上は慢性不眠障害に分類されます。逆に、不眠症状があったとしても、症状について思い悩んでもいないし、生活に支障が生じていないのであれば不眠症とは診断されません。
不眠症とは?
| 不眠症状 | 不眠症状の頻度・影響 |
|---|---|
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| 不眠症 (不眠障害) |
短期不眠障害(3カ月未満) |
|---|---|
| 慢性不眠障害(3カ月以上) |
不眠症状から生じる生活上の支障とは?
疲労感または倦怠感(けんたいかん)、注意力・集中力・記憶力の低下、家庭や社会で活動する上でパフォーマンスがうまく出せない(日中機能の低下)、気分が優れない、イライラするなど情緒面の問題や日中の眠気などがあります。攻撃性や衝動性が出たり、過活動になったり、逆にやる気や気力・自発性が低下したり、過失や産業事故・交通事故を起こしやすくなることもあります。また、眠ることについて心配し、不満を抱いて生活をしているという点も挙げられます。
不眠症の原因は?
短期睡眠障害は直接の原因が見つけやすい傾向にあります。原因はさまざまですが、人間関係の変化や対立、仕事のストレス、大事な人との死別などの個人的な喪失体験、新たな病気の発症、引っ越しなど生活環境の変化、交代勤務など睡眠スケジュールの変化などが挙げられます。眠れなくなった時期の前後の変化に着目するとヒントが見つかりやすくなります。不眠症以外にも眠れない背景には、痛みや痒(かゆ)みといった身体的な病気、またはうつ病などの精神的な病気、不眠障害以外の睡眠障害、他疾患に対する服薬の影響などが隠れている可能性があります。
一方で慢性不眠障害の場合は直接の原因が見つけづらい傾向があり、当初の原因が解決したあとも不眠症状が10年、20年と続いている方もいます。慢性化しやすい性格としては不安感が強い傾向が挙げられます。睡眠に対する恐怖心や眠れないことによる健康への心配が過剰に膨らみすぎる「睡眠恐怖」が、眠ることへの緊張を高めてしまい、不眠症状を増悪させるという悪循環を招くと考えられています。ほかにも遺伝的に脳内が覚醒しやすい人、長過ぎる昼寝や不規則な睡眠などの不適切な睡眠習慣、運動不足、よくないタイミングでのアルコールやカフェインの摂取、加齢に伴う睡眠の変化なども不眠症状を慢性化させる原因となります。
女性に不眠症が多い理由は?
実際に男女の睡眠の質を比較した研究では、一般的には女性のほうが男性より睡眠の質がいいことが報告されています※。しかし、睡眠の不調に伴う不満を女性は男性よりも強く感じやすく、睡眠不足による悪影響も女性がより強く受けやすいこともわかっています※。
女性に不眠症が多い一因として、男性よりも性ホルモンの変動が大きいことが考えられます。女性は月単位の月経に始まり、妊娠・出産・授乳、更年期とライフスパンを通して性ホルモンの大きな変動にさらされます。性ホルモンのバランスの大きな変動は睡眠の質の低下や日中の不調を招くことがわかっています。
さらに妊娠や出産・育児による社会的・家庭的な立場の変化や生活の変化、親世代の介護などライフステージとともに環境や生活の変化が大きいことも要因となりえます。
※引用元:Baker, F. (2013). Sex Differences in Sleep. In: Kushida CA, editor. Encyclopedia of Sleep. Waltham: Academic Press; 104-107
どんな治療法があるの?
不眠となった直接の原因を解決することが望まれますが、原因がわからない場合、もしくは原因がわかってもすぐに解決することが難しい場合には、不眠症状に対して非薬物療法と薬物療法を行います。
薬物療法は睡眠薬を代表とする「薬」を用いた治療で、即効性があり相性が合えば初日から睡眠の改善に役立ちます。これがあれば眠れるという安心感にもつながるため、結果として心理的に眠りやすくなるという効果も期待できます。とくに心理的ストレスに起因する短期不眠障害の場合には、うつ病への進展のリスクがあるため、医師と相談のうえ必要に応じて症状にあった処方を早期から受けることがおすすめです。近年では依存性のない、もしくは少ない睡眠薬、トイレ歩行時の転倒リスクのない睡眠薬、認知症のリスクのない睡眠薬も選択できます。
一方で非薬物療法は不適切な睡眠環境や生活習慣、睡眠への間違ったこだわり(睡眠恐怖)を改善し、不眠症状を悪循環させないように眠れる基礎を整える治療です。非薬物療法は不眠症状自体の改善のほか、睡眠薬の減薬や中止にも役立ちます。薬剤治療と異なり即効性はありませんが、一旦改善した不眠症の再発は薬剤治療よりも少ない傾向があります。
実際には、薬物療法・非薬物療法の両方のエッセンスを取り入れ、一人ひとりに合った睡眠とうまく付き合う方法を探します。薬物療法を行っているうちに不眠の原因が自然に解決したり慣れたりしてそのうち薬が不要になることもありますが、「薬を飲んでいたら眠れる」という状態が長くなるようであれば「薬」以外の手を入れる必要があります。お薬も症状も、いかに上手にフェードアウトさせていくかが大事です。
睡眠のために診療時間を確保している外来は「睡眠外来」と呼ばれます。うまく眠れていなくて辛いなと感じているようであれば、日本睡眠学会の認定する総合睡眠専門医が在籍する病院・クリニックの睡眠外来への相談がおすすめです。専門医とともにご自分の睡眠とうまく付き合う方法を探しましょう。「睡眠外来」が近くにない場合は、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。
うまく眠れない状況を改善する方法は?
眠るためには安心できて心地がいいことが大切です。肌触りがいい寝具を選ぶ、好きな香りや音楽、ゆっくりお風呂を楽しむなど、寝る前に自分の頭と心をリラックスさせ、スイッチをオフにできるような習慣をみつけることもおすすめです。眠ろうとして頑張れば頑張るほど目がさえる、というケースもあります。眠れないときには、一旦ベッドを離れて気分転換を図るのもよいでしょう。
適切な寝室環境の目安は湿度50%、冬の室温は16~19℃・夏は24~25℃といわれています。適度な静けさと暗さも必要です。
睡眠習慣としては、長い昼寝や日没後の寝落ちを避ける、規則正しく寝起きすることも役立ちます。頭が疲れていても体の疲れが足りていないと変に目がさえてしまい寝付きが悪くなることも。適度に体を動かして運動量を増やしましょう。

ドクターからのアドバイス
何のために眠るのかというところに立ち返ると、脳も身体も心もそこそこ元気に明日を過ごすため。上手く眠れない日があっても、1週間平均でみたときに日中に困らない程度に眠れていれば「がっかりしすぎない」ことが大切と感じています。眠ろうとして神経を張り巡らせるより、ある程度ワイルドに挑んだ方がうまくいきやすい印象です。
眠れなくてつらいと悩む場合には、どうぞ気軽に睡眠外来を受診してください。受診の目安は、上手く眠れない日が週に3日以上あり、2週間以上続いていて日中の不具合を感じている場合。ただし、眠れないことによる日中の心身への支障が大きい場合は、2週間を待たずに早めに受診してください。
近年では依存性や認知症のリスクが低い、もしくはないとされている睡眠薬もあります。眠れないことによる心や身体への弊害とのバランスをみながら、止めやすい薬を選択することも可能です。お薬を使わない治療もありますので、不眠を長引かせず上手に乗り切るための工夫を一緒に考えましょう。
眠りと咳のクリニック虎ノ門院長
栁原万里子先生
医学博士。日本睡眠学会総合睡眠専門医・指導医、日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医。産業医。大分医科大学医学部(現・大分大学医学部)医学科卒業、東京医科大学医学研究科博士課程・社会人大学院臨床研究専攻卒業。筑波大学附属病院睡眠呼吸障害診療グループ講師、公益財団法人神経研究所睡眠研究室客員研究員、睡眠総合ケアクリニック代々木常勤医師、東京医科大学大学院睡眠学講座客員講師などを経て、2022年11月に眠りと咳のクリニック虎ノ門を開院。ビジネスパーソンの睡眠と健康寿命を守る、をモットーに睡眠障害全般の診療と睡眠や睡眠障害に関する啓発活動を行う。
眠りと咳のクリニック虎ノ門 https://sleep-toranomon.com/






